2015/11/15
2000年代にお手伝いしていたシリコンバレーの無線技術のベンチャー企業は、テレビ大型化に伴うワイヤレス環境ニーズの高まりによりジャーナリストの注目を集めていました。日本市場のPR担当としてイベントや取材をとりまとめる調整の際、よく本社のマーケティングディレクターから「まだ開発段階で新しく公表できることがない、今はPRの時期じゃない。静かにしているいわば “ステルス” モード」という言葉を聞きました。
テクノロジー特集など魅力的な取材を見送るときわたしは「露出して話題創出できるチャンスなのにもったいない」とパブリシティ視点で思いましたが、一方で市場や自社を過大評価しない堅実な企業姿勢は好印象でした。「アメリカ人は派手な喧伝が好き」というステレオタイプに反して、マーケティング上の「忍耐」のしどころを知っている会社でした。
“ステルス” といえば折しも今年は、お金を払って記事を書いてもらいながら無償の報道記事に見せかけた、いわゆるノン・クレジット記事がステルスマーケティング(ステマ)として取り上げられています。
2010年代になりスマートフォン(スマホ)やSNSの浸透によりネット上の話題拡散(バイラル)の影響度が高まるのと同時に、主体や目的を偽装して商品を売りつけようとするステマの手法は多様化して生まれては消え、を繰り返しています。2011年にブロガーやアフィリエイトによるやらせ記事があったほか、2013年に芸能人の関与や関係者逮捕などで社会問題化したペニオク(ペニーオークション)、次いで2014年に浸透したスマホニュースアプリと同期して成長したネット上の記事体広告(ネイティブ広告)に係る景品表示法上の問題点議論など、枚挙にいとまがありません。監督官庁や業界団体はこれに応じて注意喚起や規定整理を行っています。
2011年10月28日
消費者庁
「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の公表について
2015年3 ⽉ 18 ⽇
日本インタラクティブ広告協会(JIAA) ネイティブアド研究会
こうしてステマと対抗策のイタチごっこを見ると、なんだかそもそもマーケティングやPRの目的と手段のはき違えがあるのでは、という気がします。
ステマは密か(ステルス)なメッセージ発信により消費者をだます詐欺行為。
マーケティングやPRができることは、商品やブランドの良さないし事実を引き出して伝えることであって、その延長線上にあるような虚偽は倫理違反。
とどのつまり、ステマは、企業の信頼構築を目指すPRの対局にあるものだと思います。
冒頭で述懐した企業は、コミュニケーションにおける選択と集中から、ときに取材を受けないステルス・モードを選び、ときに展示会や広告を通じたオープンなメッセージ発信およびプロモーションを講じていました。
しかし世でいうステマは、ステルスはステルスでも、消費者に対し真実を覆い隠す潜伏活動です。
経営者のみならずマーケターもPRマンも営業マンも、目の前の売上や記事獲得に目がくらんで、透明性ある “オープン” な情報開示をおこたれば、自らの企業生命も職業人人生も危機にさらしてしまうのでは、と思います。
許されるステルスとは、いいもの作っていい会社にしていいお伝えができるよう、誤ったことを言わない「オープンなステルス」なのだろうな、と思いました。